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福井地方裁判所 昭和54年(ワ)143号 判決 1980年1月31日

原告 甲野太郎

原告 甲野花子

右両名訴訟代理人弁護士 前波実

被告 乙山二郎

右法定代理人親権者父 乙山一郎

同母 乙山春子

右訴訟代理人弁護士 小島峰雄

主文

一  被告は、原告甲野太郎に対し金八〇万円とこれに対する昭和五四年七月一二日から完済に至るまで年五分の割合による金員、原告甲野花子に対し金一七〇万円とこれに対する同年同月同日から完済に至るまで右同率の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告ら、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告甲野太郎に対し金一五〇万円とこれに対する昭和五四年七月一二日から完済に至るまで年五分の割合による金員、原告甲野花子に対し金三〇〇万円とこれに対する同年同月同日から完済に至るまで右同率の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (事故の発生)

発生の日時 昭和五四年六月三日午後二時一二分頃

発生場所 福井市文京一丁目二〇番一八号先交差点

加害車 被告運転の普通乗用自動車

被害車 原告甲野太郎運転の普通乗用自動車

事故の態様 加害車が右交差点で一時停止の標識を無視して一時停止をせずに交差点に進入し、東進中の被害車の右側面に衝突した。

2  (傷害)

原告甲野花子は被害車の助手席に同乗し、事故の当時妊娠一〇か月の身であったところ、本件衝突事故の際に身体を被害車の一部に衝突させ、胎児に異常を生じたので即日産婦人科本多医院に入院し治療を受けたが、翌四日午後六時三〇分胎児は交通事故のショックにより子宮内で死亡し、自然分娩で娩出された。

3  (責任原因)

被告は加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

4  (損害)

原告太郎と同花子は昭和五三年一一月六日結婚した夫婦であり、原告花子は出産予定日を一二日後の昭和五四年六月一五日にひかえて出産のため実家に帰る途中本件事故に遭遇したものである。原告らは初めての子供として出産を心待ちにし、日ならずして出産を迎えるという時期に本件事故により胎児を死産するに至ったもので、これにより甚しい精神的打撃、苦痛を被った。右の胎児は健かに生育しており出産間近であったのであるから、出産児が死亡した場合に準ずる損害があったといわねばならず、右の苦痛を慰藉するに足る金額は、父たるべき原告太郎につき金一五〇万円、母たるべき原告花子につき金三〇〇万円が相当である。

5  よって被告に対し、損害賠償として原告太郎は金一五〇万円、同花子は金三〇〇万円と、右各金員に対する本件訴状が被告に送達された翌日である昭和五四年七月一二日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1および同3の事実を認める。

2  同2の事実は知らない。

3  同4の事実は否認する。

4  同5の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の本件交通事故の発生および同3の責任原因に関する事実は当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によれば、原告花子は本件事故の日より一二日後の昭和五四年六月一五日に出産予定日をひかえた妊娠一〇か月の妊婦であって、事故当日夫である原告太郎が運転する被害車の助手席に同乗して本件交差点を通過しようとした際、被害車の右側を加害車に衝突され、そのため被害車は進行方向左側の歩道上に一八〇度回転して乗りあげ、その際の衝撃により原告花子は足部に怪我をしたほか身体を車内の一部に打ちつけて胸苦しさや腹痛を覚え、同じく怪我をした夫とともに福井市内の大滝外科に救急車で搬送され、とりあえず足部の怪我の治療を受けたこと、しかるところ同医院の医師から産婦人科で受診しておいた方がよいと申し向けられて、事故後約二時間後にこれまで定期的に診断を受けてきた同市内の本多医院に転送してもらい、医師本多明義に下腹部の疼痛と出血、腹部の緊張感を訴えて診断を受けたところ、右の時点での胎児の心音は一応正常であり、すこし子宮出血がある程度であったこと、足の怪我で動けない同原告はそのまま同医院のベッドで安静にしていたものであるところ、三時間後には胎児の心音は完全に消失して死亡しており、その旨告げられた原告花子はそのまま同医師の観察のもとで翌四日午後六時頃自然分娩の方法により死亡した胎児を娩出したこと、原告花子はこれまで月に一ないし二回定期的に妊娠状態について同医師の診断を受けてきたが、母体および胎児とも何ら異常がなく、順調に予定日には健康な子を出産するものであったこと、胎児には死因となるべき胎盤剥離や臍帯纒絡がみられず、そして母体に対する急激な衝撃が胎児の死亡を招く場合がままあることが認められ、他に原告花子が死産する要因を窺い得ない本件においては、胎児の死亡、原告花子の死産は本件交通事故に起因するものといわざるを得ない。

三  よって原告らの損害につき検討する。

《証拠省略》によれば、原告花子は事故当時二六歳の主婦で同年令の原告太郎と昭和五三年に結婚し、初めて懐胎した子をしかも出産予定日を目前にして失ったもので、その他諸般の事情を考慮すると、原告花子の精神的、肉体的苦痛を慰藉するに足る金額は金一七〇万円をもって相当と認める。

次に原告太郎の損害につき、死産を妊婦に対する傷害として原告花子に慰藉料請求を認める限り、民法七一一条の規定に照らして夫たる原告太郎の慰藉料請求は制限されることとなるが、死産は同時に実質的には胎児の生命に対する侵害というべきであって、ことに死亡した胎児が一〇か月であって出生目前であった本件においては胎児の父である原告太郎も妻とならんで慰藉料請求権を取得すると解すべきである。原告太郎が精神的苦痛を被ったことは容易に推察されるところ、右の苦痛に対する慰藉料は金八〇万円をもって相当と認める。

四  本件訴状が被告法定代理人に送達された翌日が昭和五四年七月一二日であることは一件記録により明らかである。

五  よって、原告らの本訴各請求は、原告太郎につき金八〇万円とこれに対する昭和五四年七月一二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告花子につき金一七〇万円とこれに対する右同日から完済に至るまで右同率の割合による遅延損害金の各支払を求める限度でいずれも理由があるのでこれを認容し、右の限度を越える部分についてはいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 朴木俊彦)

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